生地を「まっすぐ切る。」 言葉にすると簡単ですが、実はここに“売り場の品質”が詰まっています。

切り方のクセがそのままお客様のロスにつながるからこそ、売り場では「生地の特性に合わせた切り分け」が当たり前のように行われています。

今回は、生地売り場でカット業務を担当して20年以上の三輪さんに、現場で培った“まっすぐ切るためのコツ”をインタビューしました。普段なかなか表に出ない、プロの手順と判断基準を、種類別にわかりやすくまとめます。

生地売り場担当者は、どれくらい生地を切ってきた?

Q:生地売り場は何年目ですか?
A:この仕事は、切り続けて20年以上になりますね。

Q:1日どれぐらいカットするんですか?
A:数えたことはないですけど、生地ばかり切っている日は100以上は確実です。忙しい時は朝から晩までで、200くらいになる日もあります。

Q:年間にすると…相当ですね。
A:ざっくりですけど、年間で2万回以上は切っているかもしれません。

カット担当は、商品が動く瞬間を支える“裏方の要”でもあります。

【基礎編】まっすぐ切るための張り方とハサミの使い方

プレーンな生地を“シャーッ”と気持ちよく走らせるには、力技ではなく「よれを作らない段取り」と「刃の当て方」が大切です。
※半折生地の場合は折り目(山)側から裁断します。

まっすぐ切れる人ほど、切る位置・手・視線がブレません。
見る位置:手元ではなく“進む方向”を見る
切る位置:いつも同じ場所から入る
持つ位置:生地を押さえる手の位置を変えない

この基本的なポイントを抑えつつ、裁断の工程ごとに詳しく解説します!

①折り目(山)側に2~3cmの切り込みを入れる

最初の3cmが勝負:切り込みで「方向」を決める

最初に短く切り込みを入れるのは、単なる準備ではありません。
・目指すラインを“見える化”する
・刃が生地を噛む位置(入口)を作る

②生地がよれないように張り、持つ位置を固定する

コツ:「張る」は伸ばすためではなく、よれを消す

引っ張る目的は“引き伸ばし”ではなく、生地が逃げる・波打つ・ねじれるのを止めること。

  • 生地が寄れると、ハサミの刃先が「布だけ」を追ってしまい、目から外れやすくなる
  • 逆に“張り”が出ると、目が一直線に見え、刃が迷いにくい

③水平より少し上向きの角度にハサミを走らせる

コツ:「下の刃で切る」は生地を固定する発想

三輪さんが強調したのが「下の刃」の使い方。 下刃をしっかり当てると、生地が下に押さえられて安定し、目が走りやすくなります。

  • 上刃で切ろうとすると、生地が持ち上がって寄れやすい

“角度”の考え方(水平より少し上向き)

会話の中では「ちょっと上に走らせている」という話が出ていました。 水平に刃を進めるより、少し上向きに刃を走らせたほうが、下刃で生地を押さえやすくなります。

ポイントは角度そのものより「下刃が常に生地を支えている状態」を作ること。

④ハサミの刃の中心で切る

コツ:「開きすぎない」=真ん中(腹)で切る

ハサミを大きく開くと、刃先がブレたり、途中で寄れが出た時に修正が難しくなります。 三輪さんは、ハサミの真ん中あたり(腹)で切る感覚を使っていました。

  • 刃先は繊細で、ズレの影響を受けやすい
  • 腹の部分は安定していて、直進しやすい

これらのポイントを抑えるだけでも、切り線の蛇行やズレが減り、きれいにまっすぐ切ることができます。

【柄物】柄に合わせて上下に分けて切るのが鉄則!

チェックやボーダー、先染め生地などの柄物を裁断する際、最も重要なのは「柄合わせ」です。
柄物の裁断時に意識すべきポイントと、美しい仕上がりを目指すためのコツを解説します。

①折り目(山)側に切り込みを入れる
②切り込みから下刃を入れる
③生地の上側を目の通りに切る
④上側の生地を広げ、切り込み位置から下側の生地を切る
上下に分けずに裁断すると、柄が大きくズレてロスが発生する

Q:チェックやボーダーはどう切りますか?
A:これはもう、柄に合わせて切るのが基本です。縫い合わせの時にズレると、お客様が大変なので。

柄物で怖いのは、

  • カット時点でズレに気づきにくい
  • 作品制作で「合わない」時に初めて発覚する
  • その時にはもう戻せず、ロスが確定する

だからこそ現場では、

  • 上下を分けて確認しながら切る
  • 同じスタート位置から切って、目や柄を間違えない
  • ゴール地点が“段違い”になっていないかを見る

といった「ズレを起こさない手順」を徹底しています。

【裂く(さく)】使うべき生地と切り方のコツ

今回のインタビューで何度も出てきたのが、「裂く」という方法。 ハサミで切り進めるのではなく、切り込みを入れたところから生地を“裂いて”進めます。
裂いて裁断する生地は、特に柔らかくてデリケートな生地や密度の高い生地に最適です。裂くことで、目に沿って進み、裁断面がズレにくくなるため、特にちりめん、シフォン、オーガンジー、馬布などには効果的な裁断方法です。

Q:裂くって、本当にまっすぐいくんですか?
A:いきます。切り込みを入れた場所からしか裂けないので、目に沿って進みます。まっすぐを優先するなら、生地によってはこれが一番ですね。

裂いて裁断したケース
はさみで裁断したケース
はさみで裁断すると約5cmのズレが発生した。
裂いたあと、糸が少し出る

裂くメリット

  • 生地の目が“ガイド”になり、長距離でもズレにくい
  • 仕上がり寸法の誤差を小さくしやすい

裂くデメリット(=お客様の好みが分かれる点)

Q:デメリットはありますか?
A:裂いたあと、糸が少し出るので、そこが気になる方はいらっしゃいます。
精度(まっすぐ)を取るか、切り口の見た目(きれいさ)を取るか。
※裂いた場合のほつれが気になる方はハサミでのカットも対応しています。

【高密度生地】スムーズに切れない理由と失敗しない方法

Q:馬布などの高密度の生地は切りやすいですか?
A:高密度は逆に、ハサミがスーッと通りません。糸が詰まっていて歯が通りにくいので。
ハサミが走らないからといって、細かくチョキチョキ切ると…刻んだ分だけ切り口がギザギザになりやすいので注意です。

ハサミを刻む回数が多いと見た目だけでなく、

  • 縫い代が揃いにくい
  • 端処理が難しくなる

など、後工程に響きます。馬布などの高密度の生地も裂いて裁断するケースもあります。

はさみを刻む回数が多いほど、裁断のズレが発生する
はさみだけで裁断すると、4~5cm程ズレが発生する。
切り込みを入れる
目に沿って裂いていく

【ちりめん生地】裂くけれど、最初と最後はハサミ

Q:ちりめんも裂くんですか?
A:裂きます。ただ、最後で糸が引っかかることがあるので、最初と最後はハサミで入れます。 無理に裂くと歪みが出て、見た目がきれいに仕上がりにくいです。

素材ごとに“例外処理”があるのが、プロの現場。 ちりめんは

  • 途中:裂いて精度を確保
  • 最初と最後:ハサミで生地の耳に通った太い糸を切る
  • 引っかかったら無理をしない

この三点で「ほつれや歪み」を避けています。

【採寸編】50cmなのに55cmに置く:縮みを防ぐ“逆算の測り方”

柔らかい生地の測り方で、特に印象的だったのがこの話です。

A:本来はきっちり50cm取る。でも柔らかいから縮む。だから55cmあたりに一旦置いて、縮まないようにしてから切ります。

「最終的に50cmにする」ために「先に余裕を持って置く」。 縮み方向を見越して、ロスが出ないように逆算するのが現場の知恵です。

50cmの場合は左手を55cmの目盛に合わせて採寸する。
右手は竹尺の端を押えて、余裕をもった採寸にしている。

【ロータリーカッター】万能ではない(柔らかい生地は特に難しい)

Q:正確さならロータリーカッターが最強では?
A:硬めの生地なら、マットの上で測って切るときれいです。ただ、柔らかい生地はそもそもまっすぐ置けないのでロータリーでも難しいです。

ロータリーカッターは「よれずに置けたら強い」反面、 柔らかい生地は「置けない」ことが多い。 さらに売り場の実務では、 1m・2m・3mといった長尺を、毎回マット上で完璧に処理するのは現実的ではありません。

そのため現場では、ハサミ+(必要に応じて)裂くが、精度とスピードを両立するやり方になっています。

【結論】薄い生地ほど、ハサミでまっすぐ切れない

Q:切り方は素材別で考えるんですか?
A:素材というより、生地の種類別で考えることが多いです。ローン、オックス、先染め、ダブルガーゼ、ちりめん。あとナイロンやビニールもありますね。

Q:薄い生地のほうがスーッと切れそうなイメージがあります。
A:実は逆で、薄くなればなるほど、ハサミでまっすぐ切れません。 本来は生地の目に沿って切らないといけないので、薄いほど難しいです。

薄い生地ほど「浮く」「伸びる」「波打つ」「折りズレが起きる」といった要因が重なり、切った瞬間は真っすぐに見えても、開くとズレが出ることが起きます。

おわりに

生地を切る作業は、ただの下準備ではなく、 お客様が気持ちよく作品づくりを進めるための“品質づくり”そのもの。
そのため、一つ一つのカットに対するこだわりが、作品作りをスムーズにし、完成した時の美しい仕上がりに繋がります。
私たちは、この工程一つ一つを大切にし、お客様の手元に届くまでの品質をしっかりと支えています。

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